安西水丸さんがお亡くなりになった後でもこうやって折に触れて作品を観ることが出来ることはファンにとってこの上ない喜びです。
世田谷文学館というローカルのギャラリーで開催するというスタンスがいかにも安西水丸事務所らしくていいです。
建物の前の池に鯉がうじゃうじゃいて思わず「気持ち悪い」とつぶやく。
「出版社から画集を出しませんかと声をかけていただいたんですが、画集なんて恥ずかしんでお断りしたんです。後日、どなたかと一緒ならどうですかと言われて村上春樹さんを指名したらすんなりOKをもらって作った」という「象工場のハッピーエンド」の挿絵。
このカティサークのボトルを描いた絵は当時お蔵入りしていた作品の一つで、偶然村上さんも同じようにお蔵入りさせていたカティサークの文章があったとかで偶然が一致した出来事を思い出させる作品なんだとか。
水丸さんの好きなところにオリジナルの「水丸フォント」というのがある。
フォントが文字というよりアートになっていてイメージを膨らます。
右は習作。
左は言うまでもなく村上春樹さん。
個人的に好きなのはこれ。
こんなかっこいい表紙を描いてもらったら作家冥利に尽きますね。
水丸さんは元々広告マンだったから見せ方がプロなんだと思う。
それにイラストレーターの才能まであるからもう天才としか言いようがない。
広告も水丸作品の中で好きなジャンルです。
水丸さんの凄いところは多分100人も1000人もの人を描きわけることができそうなところ。
ユーミンのレコードの歌詞カードの挿絵。
三越のポスター。
トヨタの新聞広告。
村上ファンなら多分みんなが好きな短編集。
この風景画なんてほんと天才。浮世絵の特徴をうまく表している。
先日お亡くなりになった和田誠さんとの共同制作。
同じテーマを二人で半分ずつ紙面を分けて描くという試み。
このSOS作品。
和田さんの山?崖?も一本の線でさすがと思うのですが、横に転覆しているタイタニックを描いちゃう水丸さんのユーモアのセンスもおもしろいです。
これは未作品。こうやってどちらかが先に描いてそれを渡して一方が描き足すという作業だったから失敗は許されなかったのだそう。その緊張感が楽しかったと水丸さんのコメントがありました(和田さんの方が先輩)。
以前水丸さんが亡くなった後に銀座で水丸展があり、それに行った時に和田誠さんと水丸さんのお弟子さんとのトークショーを見たことがあります。和田さんって丸くてかわいらしい方で故水丸氏についてこんな風に語っていたのが印象的でした。
「水丸さんってね、酒飲める人が好きなの。自分も好きだから。だからお弟子さん雇う時もまず酒飲めるかどうか聞いてたよね」
どこまでもふざけた人、水丸さん。
水丸さんは本当に何でもやった人なんだなあと改めて思ったのがこれら。
スニーカーのイラストや紙袋の装丁。
私も一枚水丸さんの手がけた紙袋持ってるんだけど、大事にしすぎてどこにしまったか思い出せない。
日本酒のラベル。
マッチ。すごくかわいい。
毛生え薬の販促ツール。
卓球のラケット。
屏風。
風呂敷。
なんとお弁当の包み紙まで(笑)!!!(汽車に吹き出しがついていて「ピーッ」と書いてある)
手広い。
手広すぎる。
こんな風に書くとまるで生粋の水丸ファンだと思われるかもしれませんが、実はむかし水丸さんのイラストが全く苦手で仕方がなくて、どこがいいのか全然理解ができなかった。ついでに言うと村上春樹だって初めて読んだ頃は全くちんぷんかんぷんだった。
で、ある日電車の中吊りを見て「あ、安西水丸だ」と思った瞬間に急にこのイラストレーターの良さがストーンと腹に落ちたんです。
なのでこの表紙を見ると当時のことを思い出します。水丸さんを好きになったきっかけの雑誌です。
水丸さんがカレー好きなのは有名で、西荻窪にある贔屓のカレー屋さんにも行ってみたことがありますが私はカレーの違いがあまりわからない鈍感タイプなので正直よくわからなかったけど、お店のショップカードはやはり水丸さんが描いてました。行く先々に爪痕を残すプロ意識(単に好きでやってるっぽいところがいい)がさすがで笑ってしまう。
これは水丸アイコンの一つ、魚の絵のカレー皿。前々回の個展の時につい買ってしまった。オパール皿は意外と使いやすくて、ワンプレートディッシュに使ったりパスタやガパオにもぴったり。
水丸さんの旅ノート。
一番好きなのは色鉛筆だと言っていた。
色鉛筆をきちんと揃えることで色彩を学んだみたいなことを言っていた。
この独特の間の取り方と陰影の説得力がグッとくる。
村上春樹氏は水丸さんの図録、水丸さんの特集記事などによく寄稿しています。
本当に仲が良かったんだなあということがよくわかります。
自分の好きなアーティストの展覧会というのは本当に楽しい。
一生の宝物、永久保存版の水丸さんの図録。
2016年初版本。
最近お亡くなりになった和田誠さんもそうだけど、水丸さんも本当によく働いたんだなあと思う。フリーランスだから定年もないし、なんか一本芯の通った仕事(才能ありきなのですが)を貫き通すという人生はとてもかっこいいし、なかなかできることではないからこそこうやってレジェンドになって行くのだろうと思います。
いつ観ても飽きない絵。思わず笑ってしまうユーモアのセンスで、いつも和み楽しませてもらうような、そんな水丸ワールドでした。