世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

マーティン・スコセッシの「カジノ」

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さて、今回からは「ランキングをつけがたい」映画をレビューしていきます。
今週もどっぷり疲れましたが、こういう時に真面目な映画が観たくなるのが私の習性なのです。


「カジノ」
これ観たのいつだっけ。多分10年くらい前かな~。最近ようやく私のDVDライブラリーに追加投入されました(それまではビデオを大切に持っていた)。ラスベガスを舞台とした映画ってどことなくチープな感じがするのですが、この映画は違う。私はこういうマフィアチックなのが大好きなのです。

(あらすじ)
お金と欲とギャンブルに駆られたラスベガスの裏側。そこで繰り広げられる人間社会のダークな部分が大筋です。ギャンブルの才能だけでなくマネービジネスにたけた冷静沈着な男、人情には厚いが短気で暴力が全ての男、そしてお金を餌に生き本物の愛情にはたどり着けない女。
この三人が生きる場所、70年代のラスベガス。憧れと幻想、華やかなショーとマネーのパラレルワールド。そして同時に展開される一時の幻想と裏側に潜む欲望の渦。

人間くさい。
一言で言うとこれが感想。

1.悲しさ
もちろんラスベガスって全然現実的じゃないけど、その「人間くささ」が、シーンのいろんなところに広がっている。それは寅さんみたいにほんわかしているのではなく、全くもって「悲しい」んです。
シャロンストーンが意外に好演技のジンジャー、彼女の人生の墜ち方は見ていて吐きそうになるくらい悲しいし、デ・ニーロが演じるエースのポリシーを持った生き方もハガネのように強いけど、そこはかとなく孤独でそれがまた言葉では語れないほどいとおしい・・・・。痛いんだよなぁ。

2.マネー社会の掟
マフィアチックな掟です。裏切り者は当然殺す。警察にばれたら事実を知っているものは全員消す。上層部には愛想を振る。騙したら殺される。でも信頼を得たらとことんその絆を貫き通す。ま、こういうお金に関わるものは全てこういう世界なんでしょうけどね。この映画での殺人、拷問シーンは結構強烈です。広大に広がる砂漠。それは生きていく事の無常さがよく表れている(殺人も行われちゃいます!)

3.求めるもの
お金や富、名誉。その中にどんどん溺れていくそれぞれの人々。
「お金が全てじゃないのね」などという、ありふれたテーマではありません(絶対に違う)。
この人達が最終的に求めるものは、どうやったって手に入らない。
ささやかな安らぎ、いつもそばにいてくれる人や暖かく包んでくれる愛情。欲しいと思えば思うほど、手の中からスルリと逃げて行く、乾いた枯渇した世界の連続の中で崩壊していく自我。

これは実話です。
ラストのエースのセリフが実に印象的。
そしてバックに流れるHouse of The Rising Sunと、マタイ受難曲『われら涙ながしつつひざまづき』。
エンドロールのStardust(これを聴いてビルエバンスの良さを理解した思い出の曲)。この3つの曲は実に感動的でずっしりときます。これが欲しくてサントラ買いました。

ハッピーエンドじゃありません。
悪が黒いとか、幸せが恒久的だとか、それは一体誰が判断するんだろうって思った。これに出てくる人物、エースとジンジャーをとってもいとおしく思う。ジョー・ペシ扮するニッキーはやな奴だったけど(彼はでも名演だった)。


個人的に、マーティン・スコセッシは昔の方が味がある。すごくすごく味がある。
最近の彼の作品は全く観ていません(ディカプリオのせいだけじゃない)。
もったりと重い空気、それに紐付く人生のはかなさや人間社会の皮肉。

いいねー。いいです。スコセッシはこういうテーマがすごくうまいのです。詩的。