世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

Things We Lost in The Fire/悲しみが乾くまで

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(あらすじ)
何もかも完璧だった家族に突然の不幸が訪れる。夫を不慮の事故で亡くしたオードリー(ハル・ベリー)、そして亡き夫が最後まで無二の親友だと認めていたドラック中毒のジェリー(ベネチオ・デル・トロ)。絶望の中で二人はどのようにその傷を埋めていくのか・・・。


ものすごい観たかった映画でした。
そして、なかなかいい映画でした。


まず俳優が魅力的。
ハル・ベリーと言えば『チョコレート』。
ベネチオ・デル・トロと言えば『トラフィック』『21グラム』。このデル・トロって、渋くてなかなかいいんですよね。
個人的には好きでした。基本的に暗い話なので、それ系がダメな方には薦めません。


あらすじを読むと、なんだか昼メロチックだし、キャッチコピーも「そう、きっとあなたを利用した」
なんて書いているものだから、そっちの線かと思っていたけど全然違った。ホッとした。
そして傷を舐めあって生きていくなどということは、一切ありません。
むしろ、そうすることをお互い避けている感じです。
公開中の映画なので、ネタバレはあまりせずに今回はさらっといきます。


人の死に直面した時、それをどう自分の中で処理していけばいいのか、全く途方に暮れるオードリー。
唯一自分を最後まで信じてくれた親友を失ったジェリー。
真っ暗なんですよ、真っ暗。
どっちも弱いの。すごく弱いから、自分勝手だったり自分に負けちゃったりするんです。

でもそれが人ってもん。



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印象深いシーンがあります。
オードリーは眠れない夜があまりにも続いた為に、ジェリーにお願いをする。
ベットに入って、足を絡めて、抱きしめて欲しいと。
そして耳たぶを指で撫でて欲しいと。
かつて夫がやってくれていたように・・・。
「これがどんな薬よりも一番効くって分かってるの。」そういいながらオードリーは数日ぶりに眠りにつく。

オードリーは亡き夫にいつもそうしてもらっていたんです。
耳たぶを撫でられると安心してすぐ眠ってしまう癖を持っていました。
けれど、それをしてくれる相手は、もういない。
どんなに涙を流すシーンよりも、そこが私は一番悲しかった。

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もうひとつ。
みんなで食卓を囲んで、夫の思い出話をするシーンがあります。
楽しく笑いながら、彼はああだったとかこうだったとか。

亡くなった人の供養って、お墓参りに必ず行くとか、毎日お仏壇を拝むとか、もちろんそれは基本中の基本なんだけど、やっぱり「いつも思い出してあげること」だと思うんです。ほんとに。
人は誰かを失ったらもちろん悲しいんだけど、時が過ぎ、現実の世界に生きているわけだから、いつの間にかそういう過去も風化していきがち。だけど思い出話をしてあげることで、亡き人もこの世に残された人も、報われるんじゃないかと思うんです。


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最後に、「善は受け入れろ」っていう言葉が出てきます。

こんなふうに、自分を戒め、行き場のない怒りや納得できない出来事が起こると、他人に甘える事を自分が許さない。でも、そうじゃなくて、「誰かの善意を受け入れる心を持つ」そのことが、次の一歩なんだって、私は思いました。

ラストシーンのデル・トロの涙のシーン。


「オレはよく夢をみた。
ドラックが欲しいから、銀の食器を盗んで売るんだ。(ジャン・ヴァルジャン!)
そして右手にお金、左手に注射器を持って売人を探すんだが、
どんなにどんなに探しても見つからない。
そのうち禁断症状で辛くなってきて、どうしようもなくなる。

その時、夢の中で思うんだ。

絶対に二度と手を触れてはいけない。

二度と手を触れてはいけない、と。」


彼がそう思ったのはけしてドラックのことだけではない。
それが私の見解です。



すごくすごーく繊細な、弱くて優しい心を持った人たちがボロボロに傷ついて迷いさまよう様子を、
この監督は見事なまでに美しく表現していました。本当にキレイだった。
雨が草花をつたうシーンや、手をつけた水が反射して緑色に輝くシーンがその繊細さを一層際立たせる。

静かな悲しみと優しさがにじみ出るような、そんな作品でした。