むかし、叔父の会社の事務所に鳩時計があって、父はそれをいつもとおくから眺めていた。
所有していたのは叔父なのに、なぜか父の姿がいつも連想される。
ローテンブルグのお店で鳩時計をみつけた時にまっさきに思い出したのも、やはりその姿だった。
所有していたのは叔父なのに、なぜか父の姿がいつも連想される。
ローテンブルグのお店で鳩時計をみつけた時にまっさきに思い出したのも、やはりその姿だった。
だから迷わず一つ購入した。
壁一面に掛けられたありとあらゆる鳩時計の中から父が喜びそうなものを一つ選び、日本へ送ってもらうように
パッキングをお願いした。
パッキングをお願いした。
しばらくしてから家を新築した時に、父は新しい大黒柱にその鳩時計を掛けた。
時計が合うような柱ができるまでは、そっと箱にしまったまま楽しみにとっておいたのだ。
時計が合うような柱ができるまでは、そっと箱にしまったまま楽しみにとっておいたのだ。
その鳩時計はぜんまい式になっているので、ちょっと目を離すとすぐ止まる。
説明書きはドイツ語だし、誰もドイツ語は分からない。
時刻あわせのやり方を、近所の時計屋さんで聞いてきたはずなのにもう忘れてしまった。
みんな面倒くさいので今ではもうその時計の時刻をあてにする人は誰一人いない。
説明書きはドイツ語だし、誰もドイツ語は分からない。
時刻あわせのやり方を、近所の時計屋さんで聞いてきたはずなのにもう忘れてしまった。
みんな面倒くさいので今ではもうその時計の時刻をあてにする人は誰一人いない。
おかしな時間に、いささか乱暴に「ガチャ」と扉が開いて木製の鳩が現れ
ホッホーと鳴いたかと思うと急いで巣箱に戻り、またガチャと扉が閉まる。
なんとなくそれら一連の音に耳を澄ますだけの存在。
ホッホーと鳴いたかと思うと急いで巣箱に戻り、またガチャと扉が閉まる。
なんとなくそれら一連の音に耳を澄ますだけの存在。
その時計は正確な時間をもはや刻まないし、
一日のうちで誰がそれを目にとめるだろう。
一日のうちで誰がそれを目にとめるだろう。
時計としての機能は忘れてしまったに等しいにしても
朝早い新聞配達のバイク
遠くから聞こえる野球中継
洗濯機がまわる音や
雨がコツコツと窓をノックする音
遠くから聞こえる野球中継
洗濯機がまわる音や
雨がコツコツと窓をノックする音
そんな生活の音の一部として
この鳩時計は毎日、不文律な時間を刻み続けている。
これらをわたしは「幸せの音」と呼ぶ。