世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

王妃マリー・アントワネット/遠藤周作

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遠藤周作の本を読んだのは中学受験が終わった冬の終わり頃。
図書館で何気なく手に取ったのがきっかけでした。

そしてこの一冊によって私の人生が大きくカーブしていく事になるとは夢にも思いませんでした。

<私がヨーロッパに興味をもった理由>
1. 遠藤周作の王妃マリー・アントワネットを読んでとてつもなく感動したから
2. ラジオ「ジェットストリーム」に洗脳されたから
3. ミケランジェロシスティーナ礼拝堂修復番組を3年連続、偶然見たから

(分かってます。結構単純です。)
これは生まれて初めて、読んで涙を流した本です(笑)。
レビューするにあたり再読したほうがいいかなと一瞬だけ思ったのですが、あの頃は何度も繰り返し読んだし、15歳には15歳なりに感動する着地点があるわけで、大人になった今の私が読むべきではないような、なんか「開けてはいけない箱を開けてしまう」ような感覚になるのでやめときます。

(あらすじ)
王妃マリー・アントワネット(陽)と、一般市民の架空の人物マルグリッド(陰)の二人が主な登場人物です。今思えば遠藤は、革命前の庶民の言葉をこの架空の人物という素材に代弁させて表現したかったのかもしれません。
マルグリッド(陰)はアントワネット(陽)を心の底から憎んでいます。なぜ自分がこんな貧乏くじな運命を歩む必要があるのか、どーにもこーにも解せないのです。嫉妬からくる憎悪、相当にメラメラしちゃってそれは大変なものです。
ある日、革命というきっかけを境にその(陰)と(陽)が逆転します。マルグリットは狂ったように感極まり、大勢の民衆と共にギロチン台に立つアントワネットに罵声を浴びせます。「死ねー!」といった感じです。

ところが、やせこけて変わり果てた姿でギロチン台に上ったアントワネットは他人の罵声などもろともせず、凛として気高く気品に溢れた様子で現れるのです。その姿は民衆の期待を裏切っただけでなく、マルグリッドの心をも大きく揺さぶります。
どうあがいても彼女だけには勝てない敗北感。
何をやっても見下されてしまうような劣等感。
そしてそれを認める器もない小さい心。

(アントワネット最後の言葉:記憶からの抜粋)
ギロチン台にいる執行人に向かって・・・・ 「あなた、その足をどけなさい」

執行人が気付かずに彼女が着ていた黒いドレスの裾を踏んでいたのですね。それに対して放ったセリフ。彼女は最後の最後まで気品を忘れず威厳を持って、群集や自分に与えられた運命を受け止めたわけなのです。

国民から搾取し得た豪華絢爛な美しい生活。文化交流も発展し数々の著名人が訪れ、毎晩のように鏡の間で行われた舞踏会。欲しいものも我儘も何でも許されたその世界で、一人ポッカリと心にあいた穴を埋める術もなく、ただ一人の理解者もなく、ドロドロした貴族社会の中に身を委ね空虚と絶望の狭間で揺れながら気品だけを最後の武器として生きていくしかないアントワネット。
一方で貧困や不運な自分の運命や、何をやってもうまくいかない人生の絶望感を他人にすり替え、行き場のない怒りをアントワネットという標的に当てながら憎悪や劣等感だけを支えとしてしか生きていけないマルグリッド。

豪華な生活の弱肉強食、エゴと対立の中での孤独との戦い。それも、贅沢の一部なのでしょうか。
明日食べるものがない生活の中で、人間の奥に潜む凶暴性が剥き出しにされてしまう事も罪なことなのでしょうか。



この本は歴史絵巻だけにとどまらず、現代にも大いに通じる人間心理のストーリーです。



当時の図書館ではハードカバーで(上)(中)(下)の3冊セットになっていました。
付録として実際に処刑が行われたコンコルド広場、アントワネットが投獄されたシテ島にあるコンシェルジョリー宮、ヴェルサイユ宮殿の内部など、遠藤本人が研究し克明に記した資料が載ってました。それに陶酔しきった私はすぐさま本屋さんへこの本を買いに行ったのですが、既に絶版となっていました。ので、昔も今も文庫本でしかお目にかかれません。

良い本はどうしてあっという間に絶版になっちゃうんだろう。。。

従姉のお姉さんが後日フランスみやげに、写真技術が悪くザラ紙で、ページをめくると外国の香りがして、
更にうさんくさいカタカナで『ベルサイユ』と書いてある日本語版ガイドブックをくれました。これをもらった時は涙が出るほど嬉しくて、今でも本棚に大切にしまってあります。

(終わりに)
図書館の貸出カードには、たった5人分くらいの貸出履歴しか残っていなかったのを妙に覚えています。

(追伸)
「舞踏会」→ 今日のこの日まで「ブドウ会」って読んでました。グレープ!
【ブドウ会変換記録】「武道、無道、ブドウ、葡萄、ぶどう」


・・・さよならー!