世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

ムーンライト・シャドウ/吉本ばなな

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基本的に吉本ばななさんを好んで読むことはあまりありません。

しかし。
私が一つだけ、強烈に印象に残ったお話がある。
やっぱりこの作家って人はすごいなって思います。

これは「キッチン」にこっそり入っている短編小説。30分もなく読み終えてしまいます。
ただし、この30分たらずで完全にやられました。

「ムーンライト・シャドウ」

これは彼女の卒業製作に書いた傑作です。
でもキッチンよりも、これが何よりも強く心に響きました。

ストーリーはある女性がとても大好きだった彼を突然交通事故で失ってしまう。
突然訪れた「愛するものの死」に、平静に振舞ってはいるものの、その悲しみは深く、ギリギリのボーダーラインを超えないように(自分が壊れてしまわないように)毎朝ジョギングを始めた。
その橋で、ある不思議な女性に出会う。
そしてその女性が彼女を導かせるある出来事とは・・・・。

ネタバレはしたくないので、ここまで!
この小説は結構直球です。ストレートに表現されているんだけど、これがとんでもないくらい強い体当たりでぶつかってくる感じです。

誰もが通り抜けなければいけない、大切な人の「死」。

私はこの短編を読んだ時、今よりももっともっと若かったけど、そのたった30分足らずの間で泣いてしまいました。
悲しくて悲しくてどこに向かっていけばいいかわからないもの。
辛くても辛くても乗り越えなければならないもの。
現実を現実だと受け入れようとしても、それを拒否しようとする心。


たまに誰かがキッチンの話をしたり、本屋さんでキッチンを見かけたりするたびに、私はこの「ムーンライト・シャドウ」を必ず思い出します。今でも何年に一度か読み返しても、鼻がツーンとしてやっぱり涙が出ます。

すごく、すごく、大切な短編小説です。