世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

あずかりもの

ローマにAちゃんという友達がいました。

色白でぽっちゃりしていてヒラヒラのお洋服を着ていて声のトーンが高くて字も丸くてちょっとセクシーなところもあったのでイタリア人にモテました。
その子から聞いた話です。




ある時1人のイタリア人に声をかけられ、おつきあいをすることになりました。
その人はシチリアの出身で、顔が濃い男性でした。
一般的にイタリア男がそうであるように、アゲアゲな言葉で誉め讃えてくる彼に彼女もすっかり惚れ込んでしまいました。

ある日、シチリアに里帰りするから君も来いよ、と言われました。
両親に紹介したいとの話だったそうです。
彼女はすっかり嬉しくなって荷物をまとめ仲良くシチリアへ出かけました。

彼の実家のある小さな街の小さな駅に着いたところで、駅に隣接しているバールにちょっと立ち寄ってコーヒーでも飲んでから行こうということになりました。
すると、彼が突然地元の友達に電話をしてくるから待ってて、と言い、どこから出してきたのかある小さな袋を彼女に渡し「これをポケットに入れてあずかっておいてくれ」と言ってその場をあとにしました。

待っても待っても彼はなかなか戻ってきません。
見知らぬ場所だしバールだし身動きは取れないし。
彼女もだんだんシビレを切らし始めた頃に、気づくとある1人の若い男性がやってきて彼女のそばにピッタリ身を寄せて小さい声でこう言いました。


「ポケットにあるものをよこせ」


彼女は彼からあずかっているものだからダメだと言うと、その若い男性は「俺はあいつの友達だから大丈夫だ。あいつが俺に連絡をしてきて君から受け取れと言われたんだから心配しなくていい」と小さく囁いたそうです。それでもなんとなく抵抗していた彼女だったのですが、ニコリとも笑わないその若い男がだんだん怖くなって袋を渡してしまいました。受け取った男はすぐにそのままその場を立ち去って行きました。


やがて彼が戻ってきたので彼女はことの顛末を話したけれど、あいつは大丈夫だよと言うので狐につままれた気分で彼の実家に向かいました。

着いた家は平屋の小さく寂しい一戸建てで周囲にはほとんど何もありません。
家に入っても両親の姿はどこにもありません。
家族はどこにいるのかと尋ねると今はいないみたいだと言います。
そして家の裏庭には緑の畑が一面に広がっていました。
ほのぼのとした田園風景かと思いきや、よく見るとそれは麻薬畑だったのです。


そこで彼女はようやく気づいたのです。
彼はドラックの密売人であることを。
そして自分は単に運び屋として利用されていただけだったことを。



「バールやレストランなどの公共の場で何かをあずかっても絶対受け取っちゃダメだよ。そういうやり方で売人の身代わりをやらされるケースが多いみたい。そして万が一それが警察に見つかったらそのまま現行犯逮捕で連行されちゃうんだから」




こわ~い!
イタリアってやっぱり怖いところだなって確信した出来事のうちの一つでした。


そのお友達がその後どうやって帰ってきたのかは知らないけど、下手に逃走なんかした日にはもっと怖いことになりそうだから何も知らない振りをして帰ってきたんだと思います。きっとそうです。


ちなみにこのAちゃんはその後ベタベタのローマ弁を話すローマ男と恋に落ち、結婚して彼の家族とみんなで同居していると聞きました。その時スペイン広場のそばのサングラス屋で働いていたAちゃんに偶然声をかけられて会ったのが最後かな。その後私もローマを離れたりしたので次第に音信不通になってしまいました。ほわ~んとしているイメージだったけど、いろんな経験を経てたくましくなっていると思うのできっとうまくやっていると思います。