グランマ・モーゼスとはアメリカ人なら誰もが知る国民的画家、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスのことで、無名の農夫から70代で本格的に絵を描き始め、80歳の時ニューヨークで初めての個展を開きました。当時は大恐慌や第二次世界大戦を経験し疲弊していたアメリカ人の心をとらえ一躍有名画家となった人です。モーゼスは農家としての一主婦としての堅実な暮らしを守り、101歳で亡くなる歳まで描き続けました。
ー生誕160周年記念グランマ・モーゼス展図録より
先日やっとグランマ・モーゼス展に足を運んだのだが、期待以上にすばらしかったのですっかり気に入ってしまった。その一番の理由は、平和で静かな風景の一コマが子供時代を彷彿させることだけではなく、安野光雅ワールドそのものだったからだと思う。安野さんは間違いなくモーゼスの存在を知っていて意識したのではないかと思うほど世界観が似ていて、以前読んだ「小さな家のローラ」(大草原の小さな家の翻訳版)を何度も思い出した。
絵の舞台となっているのはほとんどがニューヨーク州ワシントン郡(ヴァーモント州の境あたり1860-1940年頃とのこと)に、画家モーゼスが実際に暮らした当時の日常生活が描かれている。その春夏秋冬はまるで絵本の世界のようにも見えた。
考えてみると絵画というのはいろいろな種類があり、観ているものを不安にさせる絵、崇められる絵、歴史を伝える絵、画家が習作用に描いた絵、いろんな目的がある(あるいはない)。だが、彼女の絵画の世界は実存する生活そのものである。彼女が実際に暮らした村での四季の移ろいと、そこで暮らす人々の日常の一コマを「俯瞰的に眺める視線」がまるで物語の一部をみているようでとてもおだやかな気持ちになった。
鑑賞中、「そういえば作品の中には影がない」ことに気づく。もちろん風景画そのものにはある程度の遠影は存在しているが、対象物(人物、建物、動物、道具)はのっぺりとしていて影がない。だからなのか「ほんとうに遠くまでよくみえる」のである。一貫して俯瞰的に観ているというのはそういう意味。
たとえばこの絵なんかもそう。遠くまでくっきり。
もともとモーゼスさんは絵を描く前までは刺繍をやっていたそうなので、画風が平面的なのはそのせいなのかもしれない。
(刺繍もお上手です)
個人的に雪景色はお気に入りのモチーフの一つ。また、雪景色というのは全体的に色味が単調になりがちで濃淡が明確ではないので難しそうなのだけど、モーゼスさんの作る色使いとはいたってシンプルで、むしろそれが潔くも感じるし、なぜか全体的なバランスもしっかり取れていて不思議。
白をまずは塗って、その上に描き足す対象物に色をつけてハイライトさせていくような手法。
みんなでピクニック。
畑を耕す様子
ろうそくを手作りしている様子
特に冬の季節の絵がいい。
ハロウィンの準備。(ほら、遠くまでよくみえるでしょう?すごく特徴的な画風です)
りんごバターを作る風景とのこと。こうやって近所の人総出で保存食を作る。
あまりにも世界観が平和すぎて楽しくてもう一度観に行きたいと思ったけど、終了間際だったし激混みだったし叶わず。
なんでもそうだけど、ギリギリに行くのはよくない。わかってるけど。
ちなみに場所は世田谷美術館で砧公園の中にある。近頃(以前からかもしれないけど)この美術館はすごく頑張っていて、おもしろい巡回展がよくここにやってくるから用賀まで出かけることが多くなった。この美術館は館内のレイアウトにメリハリがあってものすごくかっこよく、それでいてどこかあたたかみもある美術館なので近頃すっかりお気に入り。
この入り口のアプローチなんかもかっこいい。
ここも好き。なんとなく迷路っぽくなっていて、いつ行ってもワクワク感あり。
全景。
こうやってみるとつくづく変わった建築デザイン。その自由度がもはや今となっては新鮮!
美術館庭園入り口前のポスター看板ははるばるやってきた楽しみをより高めてくれる重要な役割を果たす。特にこの美術館の場合はその高揚感がどこか特別な感じがする。
これは去年いったアアルト展。アアルトの偉業は実は奥さんのアイノによるものが多く、現地フィンランドでは彼女の方が有名らしい。実際美術館サイドがアアルトに焦点をあてようとしたら本国からNGがきた為、連名の企画展にしたとのこと。
曲木の技術がいかにすばらしいかを思い知ったのと、二人とも当時はあくまでもまじめに仕事としてやっていたことがのちにデザインで評価され有名になった印象。
館内レイアウトに話を戻すと、砧公園を眺める展示室なんかもいい。
ガラスと太陽の光をうまく合わせる試みとディスプレイセンスもこの美術館のいいところだと思う。(この日はあいにくの曇りでその長所をみることはできませんでしたが)
わざわざ用賀までくるのだから、このまま帰るのはもったいない。
おきまりのパターンは用賀からひたすら歩くことにしていて、先日は自由が丘まで歩いた。
世田谷美術館はほんとうにいい美術館。
これはあくまでも勝手な想像だけど、いわゆる中規模美術館の中でパワーバランス的にも力があるほうなのかそれなりに大きい巡回企画展をやってくれるので今後も大注目。チケット代は国立美術館企画ものと引けをとらないほど高いけど。。。
あと、近頃美術館グッズのバリエーションがめざましく向上しているので、チケット代込一人単価2,000-5,000円(私もそうだけど大方の人は単価の低いポストカードを数枚買います)と仮定すると日本の美術館ビジネスはただものではないと思いながらあとにするのであった。
もう、、これはあきらかにほぼ女性だけを狙った巡回展なので行くのはやめようかと思っているけど、ピーターラビットって立派なイギリスを代表する文学でしょう〜?なかなかこういう企画としてみることはあまりないのでちょっと興味もあるけどどうしようか悩んでるところ。行くなら平日空いている時がいいかな。
そういえば去年「美術館の真実」という本を読んですごくおもしろかったけどこの話はまたいつか。