世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

ギョレメのバス乗り場で

ギョレメのバスターミナルで次の目的地であるパムッカレ行きのチケットを買った。
「満席で移動が延びたらどうしよう」と日本にいる時はとても不安だったけどすんなり買えてホッとする。


ホテルに荷物を預けていたので取りに戻るとレセプションのお兄さん(兼こないだのバルーンのパイロット)がバス乗り場まで車に乗せて行ってくれるというのでありがたくお願いする。
するとすれ違う人みんなに車の中から挨拶をするので、何年くらいここに住んでいるんですかと尋ねると「32年間かな」という。「つまり生まれた時からずっとだよ。さっき挨拶したのは俺の親戚。ここらじゅうの人はほとんど知ってる」と言う。
生まれた時から生まれた小さな町に住み、観光業か農業の2択の中でパイロットの修行してホテルのレセプションやって日替わり訪れる外国人とつかの間の会話をして、夏に貯めたお金で冬は冬眠か。

そういう人生もあるんだなあ、、、って思った。


カッパドキアの人はあまり笑わない。
愛想をふりまくこともしない。
そして時に意地悪なジョークも言うからどういうことなんだろうって思ったけど、毎日何十人という外国人を日替わりで見届けるから刹那的になってしまうのもある意味否めないような気がする。多分それは他の観光地とはちょっと違う。うまく言えないけど。


ギョレメの小さなバス乗り場で降ろしてもらってお別れをしたあと、ベンチに座って時間がくるまで待つ。



すると同じようにホテルの人に送ってもらったらしき1人の女性が車から降りてくる。
ホテルの人は「またカッパドキアにくることがあったら次回お会い出来るのを楽しみにしています」と全く感情がこもってない口調で早口で話し、重いスーツケースを運ぶ手伝いをすることもせずにサッサとその場をあとにする。トルコ人って時に冷たいよねってその時も思う。

女性は45歳~50歳くらいのオバさまで、パンパンにはち切れそうなソフトのスーツケースを引きずってまっすぐ私の方へ向かって歩いてきたと思ったら、遠慮もなくドッカリと隣りに座る。

「あなたどこ行くの?」と言われたので、パムッカレ、と答えると「あああそこはいいとこよ」と言って、ここから延々におしゃべりが始まった。


(1人で旅をしていると、本当にいろんな出会いがあるものです。むしろ、1人だからそういう出会いが多いのかもしれない)


オバさまはカナダ在住のロシア人。
出身は確かサンペテルトブルグって言ってたような気がする。たまにこうやって一人旅をするのだと言う。あなたは何人?と聞かれ、日本人と言うと、オバさまは日本人はいいわね、行儀もいいし丁寧だし、そして東日本大震災は大変だったわねと心から同情してくれた。そして話は「なぜ津波が来た時に誰も気づかなかったのか」「なぜ逃げ遅れたのか」「震災後の日本人の行儀の良さには感動した」「原発は滅びるべきか否か」「政治家と原発の黒い関係性」などについて2人でブツブツ話したあと、「言いにくいことを話させちゃってごめんなさいね」とオバさまが言った。



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その後オバさまは話題をさっと切り替えて、お互いの旅した国の話や、どこが一番よかったか(ブレずにギリシャと答えた)や、NY、ロンドン、パリは物価が高いから暮らすには厳しいねなどという世間話をした。長い待ち時間にこうやって誰かとおしゃべりをして時間を過ごすのも全然悪くない。
しかもお互い初対面なのにどこか遠慮がないから楽に会話ができる。


長い間カナダに住んでたら故郷が時々恋しくなりませんか?と尋ねると、「どうかしらね、カナダにはすっかり定着してしまったしロシアはたまに帰るけどそれほどノスタルジーは感じないわね」と言っていた。

オバさまくらいの年代だとソビエト連邦時代全盛期の経済不安、食料危機、抑圧された言論の自由を経験しているから、出稼ぎ先の方が天国に感じるのだと思う。ロシアは男性より女性の方がよく働くし、出稼ぎ先でも職が多いから(家政婦、ベビーシッター、掃除係、時には売春など)せっせと貯めたお金を国に送り、そのお金で働かない男達が日々ウォッカを食らうのはよくある話。
オバさまの事情がどういうものかは知らないけれど、カナダでそれなりに楽しく暮らせているということは、通りすがりのバックパッカー的な自分としては嬉しいことだと他人ながらに思った。


「ところであなた1人で旅してるの?」とオバさまが言う。

はい、と答えると

「あなたってなかなかタフな女ね」と言われたので

いえいえ、オバさまの方が私なんかよりももっとタフですよ


と言い、私たちは笑って別れた。

オバさまはイスタンブールに。
私はパムッカレに。
それぞれ別の場所へ。



私はこのギョレメのバスターミナルでのオバさまのことを、きっとまたこの先何十年か後にふと思い出すのだろうし、オバさまも私のことをきっとどこかでふと思い出してくれるといいなと思う。



記憶の片隅にふと突然現れては通り過ぎるような。

そんな一期一会がたまらなく大好きだ。



(追伸)オバさまはとてもせっかちだったので、イスタンブール行きのバスを乗り過ごさないかどうかにとにかく躍起になっていた。なんか自分の姿をみているようで笑ってしまった。私もヨーロッパでの列車、バス、フェリーにはとことん焦らされた経験があるので、旅先では時刻表、乗り場、行き先などは少なくとも10回は確認しないと気が済まないくらいの心配性になってしまう。