世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

「ニースの港」ベルト・モリゾ

パリで毎日のように、様々な美術館へ足を運んだ。
お天気であろうと雨だろうと、特に予定がない手持ちぶたさな一日でも。
またそれが自分の好きな画家だろうとなかろうと、
とにかく何かに憑かれたみたいに、大きなところから小さなところまで歩いた。

パリには無数の美術館が点在していて、それぞれのアイデンティティーがしっかりと確立している。
だから「小さい美術館」とはもはや呼べないのかもしれない。

ある日。それはすごく素敵なお天気の日で、とってもすがすがしく空は高くすっきりと青かった。
何となく身軽で歩きたかったので、カメラはあえてアパートに置いて「今日は写真は撮らない日」と決めた。

エッフェル塔を背中にして、パリのとある住宅街の公園のはじに、その美術館はある。

「マルモッタン美術館」

白い邸宅には緑が生い茂る中庭があり、日が燦々と降り注ぐとても気持ちの良い美術館。
ここはモネの絵画で名高い場所で、たくさんの『睡蓮』、『日の出』、『サン・ラザール駅』など著名な絵画を観ることもできる。

ここで私は改めてモネの素晴らしさに開眼してしまった。
(その数日後に『かささぎ』でダブルショックを受けることになる)
ルーブル、オルセーのたくさんの観光客で窮屈になった部屋で観る作品の一部だけでは計り知れない、
モネの色彩を重ねたその曖昧さと美しさにただただ、無言のまま閉口してしまった。
それは、小さなショックと大きな発見みたいな感じだった。


そして二階の奥の部屋に入って、目に飛び込んできたもの。



ベルト・モリゾ/「ニースの港」  

イメージ 1



この絵の細部まで、しっかりと覚えている。
どういう質感で、どんな色彩で描かれていたかを。
そしてあの時心を打った、その感動まで。


荒々しい海はそこにはなく、南フランスのニースの暖かい陽射しと、ゆるやかに流れる時間。
一隻のヨットは小さく揺れながら何を語るでもなく、言いたいわけでもなく。
ピンク色の、太陽の反射で輝く海だってけして主張したいわけじゃない。


この絵はまるでラフマニノフパガニーニの一節みたいな感じだなって思う。


でもそんな事を言葉に乗せると、単に気障なせりふだと思われて揶揄を入れられたりなんかしたら、
このほんわかとした記憶に傷がついちゃうような気がする(第一自分だってちょっと気恥ずかしい)。
だから誰にも言わない。
でもここでこっそり語る(文章にする)くらいなら別に構わないんじゃないかと思った。


モリゾの絵は他にも沢山ある。家族をモチーフにしたものも多い。
私はそういったルノワール的な要素のものではなく、この絵が一番好き。
ちょっと雑なようにも感じるし荒削りにも見えるかもしれないけど、それでも全然いいんじゃないかと思う。

そしてメッセージは、限りなく控えめな方がいい。言い換えるなら、それがなくたっていい。