世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

落下の王国

 <再掲記事テスト中>
 
このネタを書いた時はスルーしたけど、衣装は石岡瑛子さんです。
それにしても自分が過去に書いたものって当時のテンションであって今とは違うので恥ずかしいです。
 
2008-10-13
 
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数年ぶりに「やられた感」でいっぱいになったイナズマ映画。
これは友人のチョイスで観にいったんですが大正解でしたね。ファンタジーものだとてっきり思っていたので大した期待もせずに行ったんです。自分一人だったら間違っても選ばなかった。ところが予想は大胆にも裏切られた!!!

 

イメージ 1

 

落下の王国アメリカ 2006年(※劇場公開中)
監督: ターセム
主演: リー・ペイス、カティンカ・アンタルー

 

(あらすじ)
映画の撮影中不慮の事故に見せかけて橋から落ちて自殺しようとしたスタントマンと、オレンジを撮ろうとしてはしごから落ちた農園に働く移民の小さな女の子とが病院で出会い、おとぎ話を聴きながら次第に心が洗われていく、という、一見ごく普通のストーリー。

 

この時点で分かるように、「落ちる」という言葉がキーワードになっています。原題「The Fall」だけに!
言葉遊びですね。まずこれが第一の仕掛け。もうありとあらゆるところにFallだらけです。

 

この映画の素晴らしさを何から伝えたらよいのか、全く分かりませんがまずは一撃を与えられたオープニングから。
 
 
 
 
 
 
出だしの、男の人がニュウって出てきてベートーベンが流れた時点で既に軽く一撃くらってます。
 
 
1.子供目線
この主役の女の子(6歳の設定)はインドからアメリカに来た移民家族が働くオレンジ農場のオレンジ摘み(フルーツピッカー)役で、実際英語もまだたどたどしく、どっからどう見ても絶世の美少女ではないんだけど、素朴で素直であどけなくてめっちゃくちゃカワイイんです。まずこの時点で普通のハリウッド映画ではないことが分かる。X線室はまるで悪魔の部屋。病院で目にする人の死。怖くて泣いてしまうその子供目線がイタイケな程に伝わってくる。彼女が手術する時のフラッシュバックシーンなどは「サスペリア2」に似た不気味さ。実に素晴らしい。

 

2.驚嘆の映像美
こんなに美しい映像を目の当たりにしたのは一体いつ以来だろうか。リュック・ベッソンの海よりも、ジョージ・ルーカスの宇宙や砂漠よりも、デ・パルマの「黒」やヴィム・ヴェンダースの沈黙よりも、もっともっと色鮮やかで美しい。自然や地球映像美。
 
フィジー・バタフライ礁に悠然と立つ姿
インドのコバルトブルーの海を象が泳ぐシーン
バリの遺跡みたいな場所で踊るケチャ
アフリカの一面ベージュ色に広がる砂漠と雲のないマットな青い空に佇む一台の真っ赤な馬車
崖の下にそびえる「青い街」
 
監督のこのような美意識の高さは嫌味がなく、米的というよりも欧州的な美しさがある。
空間のとりかたが絶妙で、CGは一切なし。
ストーリーをすっ飛ばしてもこれだけで十分見ごたえがある。

 

 

 

 

全てのシーンが寸分の狂いもないくらいに、完璧。

 

イメージ 2

 

3.巧みな脚本と演出
この映画は基本的に「現実」と「作り話の物語」の2部構成になっています。ここまではありがち。
物語は大人が子供に語りかける作り話と現実が同時に進行していくのですが、その距離感がどんどん近くなっていく。最後には虚構に現実がシンクロして、その2つが1つにつながっていきます。
そして観客側は作り話と現実の世界との悲しい結末のどちらともに涙をそそられるという第二の仕掛けになっています(すごいなー)。

 

更にその寓話に登場する主役たちは、現実のパートにも別の役として登場しているという第三の仕掛け。

 

4.「Fall」の転換
オープニングでの「Fall」は不吉なものの兆候として描かれています。
すでにあのシーンでもこの映画のストーリーに絡むたくさんのキーがFall以外にも実に見事に隠されているのですが、ラストは一転。
オレンジ農園に戻ったあの女の子が語る。
「あれから病院を退院してロイ(スタントマン)に会えなくなったのはとても寂しいの。でもたくさんの映画で彼の姿をみたよ。とってもおかしいの。彼は落っこちたり転んだり落っこちたり転んだり落っこちたり転んだり・・・・・このセリフがリフレイン&フェイドアウト。そしてサイレント活劇のスタントシーンが無数に登場する。そう、ニュー・シネマ・パラダイス手法です。そして「Fall」という意味は不吉なものから一気に逆転し、ポジティブな意味にいつの間にかスイッチされる。
うわーすごいなぁーと感動し、ジーンときていたら・・・

 

エンドロールは再びベートーベンの交響曲第7番第二楽章が流れる。

 

その理由として監督ターセルはこのように述べる。
「表紙がベートーベンなら裏表紙も同じにして、一冊の書物みたいに締めようと思ったんだ」

 

おそらくbeabea映画館のランキングに堂々と5位以内に入ってくる勢いです。
映画をみてこれだけノックアウト感を抱いたのは本当に久しぶり。
ハリウッド映画の王道、グラディエイター的なものを期待したらおそらくがっかりすることと思います。
これはあくまでもインド出身のターセムという監督がいわゆる興行収入やバジェットを一切無視し、独自の美意識を徹底的に追求した映画と言えるでしょう。

 

この監督さんって一体何者?!と映画の途中で何度も思ったら、「ザ・セル」の監督さんなんですって(私は観たことないけど)。一作目が「The Cell」、二作目は「The Fall」ときたら、おそらく三作目も「The ○○」ってくるかも!そういう遊び心のある監督さんだと信じています。もともとはCMプロデューサーでワンカット撮りが得意だからこそ人の心に訴えるコツを知っているのかもしれない。
彼はこう言っています。

 

「これが嫌いな人がいても、それはしょうがない。映画も人生もそんなものだから。僕は自分の職業に恋している売春婦みたいなものなんだ。なんなら無料で寝てもいいんだけど、それでお金をくれるならラッキーみたいな」

 

この気さくでフランクなところが素直に生かされた映画なんだろうな。

 

2008年も終わりに近づき時間は確実に通り過ぎて行き、日々の雑務に自分も紛れてしまいがち。
私は毎年自分に目標を作って必ず何か自分に「落し物」を残していきたいと意識的に心がけていますが、こういう映画に出会えたことが嬉しいです。

 

 

 

(おまけ)
余談ですがターセムはLevi'sやモトローラなどのCMをたくさん作っていました