数ヶ月前からずっと楽しみにしていた作品展。
待ち遠しくて待ち遠しくて。
その美術的観察もなかなか興味深かったのですが、やはり村上春樹さんとイラストレーターたちの感性がしっかりとつなぎあっているところがポイントなんだと思います。村上さんは字で表現する人、イラストレーターはその世界観を絵で表現する人。そのバランスがいいです。ちょっと軽く見えるんですけど奥に隠れた哲学思想が見えます。さすがです。現代文学の、いわゆる「ジャケ買い」狙いの読者に媚びる装丁なんかやってませんから。
ではそれぞれのイラストレーター作品をご紹介です。
<佐々木マキさん時代>
いわゆる村上初期時代の短編小説群。
これらの文庫本は何回繰り返し読んだかもう数えられません。
「風の歌を聴け」はデビュー作で、続編が続きます。
昔からの村上ファンであれば誰もがこの頃の村上作品を嫌いだという人はいないでしょう。いま読み返したって限りなく斬新で、そこはかとなく繊細。
<安西水丸さん時代>
安西水丸さんはエッセイやコラムの装丁を手がけてらっしゃいました。
「中国行きのスロウ・ボート」「ランゲンハルス島の午後」「蛍・納屋を焼く・その他短編」は水丸さんですけど、それ以外はエッセイです。これがまたおもしろいんです。さっきもパラパラ~とめくってみたけど、つい引き込まれそうになります。
村上氏の文体力が強いんですよ、ほんとに。
<和田誠さん時代>
和田誠さんの作品はもっとありますが、私の手持ちがこれしかなかったです。
和田さんはポートレートがとにかくお上手でジャズにも傾倒されていてそれが村上氏の目に止まり、「和田さんのジャズメンのポートレートをみていたらそれぞれのエピソードを書きたくなった」ということからこの「Portrait in Jazz」という本ができました。しかも別売りで本に沿ったCDもあります。しかも和田さんと村上さんの大好きなプレイヤーあるいはシンガーをそれぞれピックアップし、交互にそのエピソードが掲載されていますが、どっちが村上でどっちが和田さんかはわからない仕掛けになっている、という、なかなかマニアックな(笑)一冊となっています。私は根強いファンなんでもちろん読み分けできますが。
当時、私もジャズを聴き始めた頃で、何がなんだかよくわからず途方に暮れている頃にこれはとてもよい導きになりました。もちろん音楽は万人うけするものではないから、村上さんや和田さんがどんなに好きだと言っても私には肌感的に受け入れられないものもありますが、これをきっかけにフィッツジェラルドが好きになりました。その村上さんの解説がこれまた詩的で美しかった。歌に負けないくらいに。
右の黒うさぎ: 水丸さん
左のねずみ : 和田さん
ちょっと前に「職業としての小説家」という本にもありましたし、この雑文集を読んでも分かりますが、村上さんがノーベル賞欲しがってるなんて死んでも言うわけないです。ノーベル賞なんかどうでもいいです。何かとバッシングを受けることが多くなった村上氏ですが、それは今の文学があまりにも明確でわかりやすく日常的になってしまったために人々の想像力が追いつかないからなのだと思います。
安部公房みたいな作家がもういないからなのです。
これ以外にもう一冊競作があります。
村上さんが「セロニアス・モンクのいる時代」という本を書いていて装丁を水丸さんに依頼していました。水丸さんは一度モンクにニューヨークで会ったことがある話を電話で村上さんに話し、それが最後になってしまった。その話をのちに村上さんが和田さんに話し、亡くなった水丸さんに変わって和田さんが「水丸さんの話をもとに表紙を描いた」オマージュとなっているのです!涙なしでは聞けない話です(本持ってないけど)。
買いにいくかな、いまから。
<大橋歩さん時代>
村上ラヂオは確か女性誌のコラムだったものを集めたエッセイ集。
大橋歩さんとはおそらくこのバージョンでしか組んでないかな?
ちょっとわかりませんが知る限りではそう。
今回の展覧会開催場所は、練馬にある「いわさきちひろ美術館」です。
こんな大物揃いの美術展なのに、こういうところで開催するあたりがニクイです。
偉そうでもなく媚びない、ひっそりとしたやり方がいかにも村上軍団らしい。
特別企画で新潮社の村上春樹さんの編集者のトークショーがあったのですが、予約開始日の朝8時にアクセスしたらまだWEBオープンされてなく、会社について10時くらいに思い出してアクセスしたらもう満員になっていた!おそるべし。
なのでのんびり7月の最終週、都知事選の前日に行ってきました。
そんなに人がいないだろうと思って行ったらすごい人!
ミュージアムショップなどもたくさんの人だかり。
練馬の住宅街(いわさきちひろさんのご自宅が美術館になっている)のど真ん中にこんなに人が?というほど人だかりでした。驚きました。
いわさきちひろさんの常設展ももちろん拝見しましたが、これがまたすばらしくて。
デッサンがとんでもなくすばらしかった!
やっぱり絵をやる人ってデッサンですよね。
感動します。
ピカソだってあんなへんてこりんな絵かもしれないけどデッサン天才ですから。
ちひろさんの水彩の柔らかさとグラデーションにもため息がでそうだった。
これ、散々悩んで選び抜いて買ってきたポストカード。
なんともいえない色彩感覚ですね。
ホレボレします。
ミュージアムショップで図録と水丸画集待望の新刊を買いました。
すごく嬉しいです。
そしてついこれも買ってしまった。。。
カレー好きだった水丸さんイラストのカレー皿です。
こういうのって継続で販売しないだろうから今のうちに買っておこうかと。。
小さいカフェも併設した気持ちのよい美術館でした。
はあ~、楽しかったです。
これ書いてる間も楽しかったです。
おかげで今日はすごく幸せです。
ちなみに本に出てくる「ホットケーキのコーラがけ」が展示期間限定でカフェメニューに追加されていました(注:ほとんどジョークだと思います)。村上の本を持っていくと食べれるとのことだったので、「羊男のクリスマス」を持参したのですけど、時間がなくて食べれませんでした。
<付録>
大好きな紀行本シリーズの中から選りすぐりを2冊。
こちらはイラストレーターは登場せず、当時よくチームを組んでいた松村映三さん、あるいは村上さん自身が撮影した写真などが登場します。
雨天炎天
一番大切にしてるかも。
最初人から借りて読んだらおもしろくておもしろくて、欲しくて古本やっと見つけて買ったものです。そのあとも何度か繰り返し読みました。
これ、初期の装丁版は今おそらく絶版してます。
遠い太鼓。
これも人から文庫本を借りて読んであまりにもおもしろくて、のちにハードカバー見つけて買って、何度も何度も繰り返し読んでいます。わりと分厚いので持ち歩くの大変ですが、それも気にならないほど大切な本です。
村上作品を読むと何かと自分の共通項が多くて、まるで村上が好きだから私もそうなったと思われがちなのですが、実際は偶然が重なってそうなっているだけです。
むしろ、自分が今までずっと一人で考え込んできていたことの答えをくれたような、そんな稀有な作家です。普段自信がないことも、ああ、これでよかったんだなと初めて思わせてくれた人なのです。