世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

脚本家 坂元裕二

坂元ドラマが好きすぎて買ってしまった本。

2018年に発刊されたものなので、「カルテット」までの話が載っています。

 各作品の解説や、出演者、監督、プロデューサーなどのインタビューも盛りだくさんで大変読み応えがありました。

 

駆け出しの頃は誰かが書いた原作があり、大衆受けするものをテレビ局がピックアップし、ドラマ化に向けて坂元さんが脚本を作るというパターンも多くあったようでしたが、現在はほぼオリジナル作品になっており、好きなものを作り上げて行けるだけの知名度と体力を身につけ、坂元ワールドの完成形に到達したような手応えを感じます。

 

 

私が一番最初に衝撃を受けたのは「Woman」というドラマで、満島ひかりさんと田中裕子さんが離れ離れになっていた母と子の再会と、親子という信頼を構築していくという物語でした。どうやっても報われることのできない生きることの苦悩や挫折の重みと、それを全て包みゆく愛情と懐の深さ。それぞれがいろいろなものを諦めたり背負って生きている。気持ちのすれ違いは決して男女に限ったことだけじゃなく、親子や兄弟、夫婦や友人でもそう。みんな立場も境遇も違うし、傷ついて背負っている荷物の大小も全部違う。何よりも一番揺さぶられるのはところどころに広がる「良心の呵責」なんですよね。人はどんな境遇であれ誰もが救われるべきだという器の大きい性善説が坂元作品の根底にあるような気がします。たくさんのことを失っても、もうダメだと思っても、やり残したことを思い出せば、それが希望となり、希望こそがどん底から自分を救う小さな明かりとなって足元を照らすのだと。それは言葉を変えれば時に生きがいとなり、生きがいを持っている人はきっと強くなれるのかもしれません。(別になくてもいいんですけどね)

 

 

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この本の巻末に「履歴書」というのがあり、ドラマの登場人物を作るに当たりその人物設定を細かく作り上げたその人の人生のショートストーリーが載っています。とても短い短編小説なのですが、それがとにかく読ませました。何をどうやっても最終的にはあったかい物語を作る人だなあと思いました。

 

 

あと、「人は常に本音をいう訳ではないから、わかりやすいセリフは書かない」のだと言っていました。とても共感してしまって、だから坂元作品が好きなんだなと思いました。私もどちらかというと伝わりにくい言葉、伝えようとしても伝えられない気持ちや無意識の自我みたいなものを表現する人の言葉の方が心に響きやすいです。たまたま歩いていたら不意にポーンと投げかけられたボールを思わずキャッチしてしまうような、そういう出来事の方がずっと心に残ります。

 

 

 

昔の話。

夕方の6時すぎくらいに友人がLINEでメッセージを送ってきたことがありました。

そこには、突然に一言だけ「いま帰りの電車からスカイツリーを見ているんだけど、この先自分にいいことなんて一つも起こらないんじゃないかと思った」って書いてありました。

それは別に誰かに何かを期待して言ったメッセージではなくて、偶然こぼれた心のつぶやきだったのだと思います。そういう日常の時間の一部を切り取ったのが坂元さんの脚本のような気がしています。

 

 

 

 

 

こないだ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」を再放送で初めて観ました。まるで月9ドラマとは思えない薄暗さでしたが、とにかく全てが正直で思いやりがってピュアで美しい物語でした。有村架純ちゃんはつくづく天才だね。何を考えているのかよくわからないけど真の強さをそこはかとなく感じる、と言っていた坂元さんの言葉はもっともだと思います。

 

 

すっかり坂元ワールドにのめり込んで、一冊じっくり読ませてもらいました。

もう一冊ユリイカの坂元特集買ってありますが、もう少し余韻に浸りたいのでそっちは少し時間を置いてからかな。