夜、ホテルに帰ろうと歩いている時に、道の片隅にうずくまっている少年を見つけました。
年の頃は7歳くらいかと思います。
11月のイスタンブールは昼は晴れればポカポカ陽気ですが、夜はぐっと冷え込んできます。ウインドブレーカーの下にフリースを着て厚手のマフラーを巻くくらいでちょうどいいくらい冷えてきます。手も冷たくなるので、その時私はポケットに小さなホッカイロを入れて手を温めながら歩いていました。
少年を見た時、こんな寒い夜に物乞いなんてかわいそうだなと一瞬思いましたが、路上にいるのはほぼトルコ人ではなくどこかからやってきた難民です。彼らはひったくりもするしスリもします。違う世界の人々です。だから同情するにはちょっとややこしいのでいつものように素通りしました。
その少年は施し用のカップを持っているわけでもなく、建物の陰にしゃがみこんで膝を抱えじっと下を向いてうずくまっていました。トラムが走り人々が足早に歩く賑やかな大通りの片隅の、薄暗い建物の隅で夜風を避けるようにしてうつむいているのです。
突然、ハッと思い直してもときた道を戻り少年のところまでいきました。
そして、ポケットに入っていた小さなホッカイロを取り出して彼に渡しました。
そしてこう言いました。
ポケットに入れて。食べちゃダメだよ
少年は多分わかってなかったと思います。
夜に突然目の前に現れたアジア人の女の人(年齢不詳)になにか言われ、小さな白いものを渡されたのです。
ちょっと面食らったんでしょうね。
いいんです、それで。あとで分かってもらえば。
小さいポケットカイロはもうぬるくなっていてさほど効果はなくなっていたのが残念だったけど、ないよりはマシでしょう。お金や食べ物じゃなくて申し訳ないけどちょっとおもしろい経験をあげることはできたかもしれない。彼のその後の反応を想像するとなんだか楽しくなってきました。その足で近くのスーパーに買い物に行き、ホテルに戻る途中で例の少年がいた場所の近くをまた通りかかりました。
だから彼の様子を向かい側の通りから見てみました。
すると、仲間の年上らしき別の少年が一人登場していました。
そして私があげたホッカイロを不思議そうに眺めています。
あの少年はというと、
さっきまでうずくまっていたのに身を乗り出して、満面の笑顔で得意げに彼に何かを語っていたのです。
嬉しい。
このリアクションが何より嬉しかった。
心の中で彼とハイタッチしたような気分で私はホテルへ戻ったのでした。
小さい頃から路上で生きていくことを強いられる運命の少年よ。
生きてりゃ悪いことばかりじゃないなんて偉そうなことは言いません。
だけど、おもしろことはきっとあると思うよ。
たくましく生きていけ、少年よ。