世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

オルセー美術館展2010とコジュヴァル館長

今年は印象派の当たり年と言われているのは、今オルセー美術館が修復中で名画が続々と美術館を抜け出し世界中を巡業しているから。

 
印象派を知りたかったらオルセーに行けばいい」

 
そう思うほど、一流の名画がずらりと勢ぞろいしている世界トップクラスの美術館。
そんな美術館館長の講演会があるというので、その日に焦点を当てて六本木の新国立美術館を訪れました。
 



ギ・コジュヴァル オルセー美術館館長
1955年 パリ生まれ
オルセー美術館、リヨン美術館、ルーブル美術館などの学芸員を経て、国立文化財博物館ディレクター、モントリオール美術館館長を歴任。2008年、オルセーの館長に就任。
 
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講演会の議題
オルセー美術館のコレクションの歴史と「ポスト印象派
 
 
この館長さんのインタビューを雑誌で読んでいたので個人的にはとても興味がありました。
世界でもトップクラスのオルセー美術館の館長って一体どんなことを考えているんだろう。しかも生粋のパリ生まれパリ育ちですから、背負うものもプライドもそれなりだと思います。この館長が就任してから、オルセー美術館はさっそく改築工事に入り、ブラジルやイタリアなど世界中の建築士を集めてコンペティションを行い、選りすぐりのオルセーにするためにトップたちが集結することになりました。



まず、改築したきっかけは老朽化と時代遅れの展示室。
通常美術館というのは、10年くらいすると改築を余儀なくされることが多いのだそうですがオルセーは25年の長い月日を経て大改築をすることにした、これは実に稀なことだそうです。



 
展示室の大幅レイアウトチェンジ
印象派までたどりつくルートが分かりにくい、年間300万人の来場者を受け入れる設備が乏しい(リフトが一機しかないなど)といった理由から大幅なレイアウトチェンジを行うそう。確かに迷い子になっちゃうんですよね、印象派コーナーに行くまでに。エスカレーターに乗って3階だか4階に行けばたどり着けるんですが、1階からゆっくりまわって・・・なんて思うと突然アールヌーボーが登場したりしてまとまりがなかったのは事実。
 
 
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展示室内部の設備
たとえば、額にあうような木の床にするとか、スポットを直に当てるような工夫をするなど。
この館長は照明にものすごいこだわりをもっているようで(自分でもそう言ってました)、今のオルセーは天井から床にスポットが当てられ、そのリフレクトによって絵画に照明を当てるという手法をとっているそう。これは25年経った今ではあまりにも時代錯誤なので絶対変える、と豪語されていました。
 
 
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オルセー美術館のポスト印象派コーナーの支柱を撤去
オルセーを訪れた方ならきっと知っている、ゴーギャンコーナーにあるこげ茶の支柱。
あれ、全面撤去(笑)!
個人的にこの部屋にくると、あぁオルセーにきたなっていう不思議な郷愁を覚えたものですが、もう見れなくなってしまったと思うと寂しいです。これだって最初見た時は斬新な作りだと思ったものですけどね。
 
 
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それと、大変興味深かったのは、パリの三大美術館は言わずと知れた、ルーブル、オルセー、ポンピドゥーなんですが、それら三つの美術館は年代別に監修を受け持っているってご存知でした?!私は知らなかった!
例えばオルセーは1880年代~1914年まで(第一次世界大戦)までしか扱わないんですって。それ以降の画家の絵を購入あるいは寄与されることはNGなんだそう。確かにオルセーにはエジプト関連のものは一切ないし、ルーブルには印象派海外はいっこもない。ポンピドゥーにミレーの絵があったら近代絵画ではないからそれもNG。ああそうだったのか、そうだったのね。かなり目からウロコ 館長さんもたまにポンピドゥーに行くんですって。オルセーだからコンテンポラリーは興味ない、なんてそんな堅い事もどうやらないようです。
 


プレゼンテーションはおよそ一時間弱だったのですが、スライドをご自身で操りながら全部そらで語っておられました。しかも全く飽きる事なくよどみもなく、実に見事なプレゼンテーションでした(私の隣りにいた方は居眠りしてましたけど)。さすがですね。それでこそ世界の美術館館長。メモ見ながらプレゼンなんかしたらモグリに決まってますものね。

 
講義の最後は質問コーナー。
何か質問がある人はいませんか、といわれたので、私はまっすぐ挙手して質問してきましたのでそれもお知らせしますね。(そうじゃなきゃ何のために講座の日に合わせたのか意味ないですから)
 
Q:(beabea)
パリには無数に美術館が点在しているのですが、大幅な改築をするにあたりパリを代表する、あるいは世界を代表する美術館としての、今後のヴィジョンと戦略について教えて下さい。
 
A
オルセーには年間300万人の来場者が訪れます。これ以下になることはなくてもこれ以上を突破することもあるかもしれません。来場者を増やすことについて焦点を当てることは今プライオリティーではありませんが、例えばオルセー美術館のとなりには銀行の建物が建っており、そこの土地を買い取って敷地を広くすることも考慮にあがりましたが、今はまだ具体化されているものではありません。
また、今オルセーでは様々な企画展を予定しており、今夏は「罪と罰」という企画も開催し大変好評を博しています。そういった、斬新な新しい提案をしていけるようなユニークな美術館を作り上げるのも目的の一つです。
 


私が思うに、オルセー美術館を改築するってすごい勇気のいることだと思うんですよ。もちろん老朽化などの問題もあったでしょうし必然に迫られていただろうから誰かが手がけなくてはならないんですが、この館長さん、3年前に就任されてますでしょ。当然このオルセー大改革のためにヘッドハントされたはずなんです(勝手な想像ですが)。生まれもパリの16区という完全なる地元っ子ですから様々なバックアップもあったでしょう。だけど、これほど知名度と権力とお金を持っている美術館を変えるというのは相当難儀なことなはずです。それを成し遂げることは構成の歴史に名を残す偉業ですよ。だからこそ「どういうオルセーにしたいの?」って聞きたかったんです。ライトの位置だとかそんな小さなことだけではないはずなんです。
 
 
結局分からずじまい・・・。私の質問が曖昧だったかも。戦略とビジョンなんて曖昧な日本的な質問だったかも。

しかし貴重な体験でした。私は緊張で心臓がドキドキしちゃいましたよ。他にも質問者が多数おりまして、その中には「絵を購入するのは館長の独断なんですか」とか(答えはNo.バイヤーや学芸員が徹底的に調査と審査を行って何度も遂行してからジャッジするって言ってました)、「ルソーの絵画に思い入れがあるのはどうしてですか」とか(答えは館長自身がポスト印象派と呼ばれる時代の画家に思い入れがあり今回の企画展もその時代の画家の絵を集約させたから)、などなど白熱したトークが繰り広げられ、非常に楽しくて興味深く、私としてはとても充実した時間を過ごす事ができました。こういうディスカッション大好き。すごく刺激になるしいろんな人の意見や知らない事をもっと知る事ができる。


その会場をあとにしたら、なんと偶然うちの会社の通訳さんとばったり出くわし「あら、さっきの質問はbeabeaさんだったのね」なんて言われちゃってはずかしいのなんの。その方も絵画がとてもお好きな上に、館長のフランス語通訳をされていた方とは昔からのご友人とのことで久しぶりの再会に感動したと話しておりました。
 
 
 
 
さてさて、では今回も相当たくさんの素晴らしい名画が登場しました。
ここからは私のお気に入りの絵画をピックアップ。
 
 
ルソーの「戦争」と「蛇使いの女」。
 
 
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コジュヴァル館長曰く、
「オルセー改築がなかったらこれらの作品を外に出すことはけっしてしない」
って断言してました。
 
 
アンリ・ルソーってこういう空想の絵画を描かせたらピカイチ。
当時にしてはめずらしい、ポップな印象がとても強く、近代絵画の前進のように感じることもあります。グッゲンハイム美術館NY)で観たルソーはこれほどシリアスでもなく、もっとキッチュでいかしてました。独特の世界観は「静止した緊張感」を感じさせます。ドキッとします。それがこの画家の表現力。他の画家が追い求めた躍動感とはかなりかけ離れています。

また、風刺的なメッセージもすばらしいものがありますね。醜悪から目をそらしては現実は語れないという事実を早くにつかみ始めた先進的な画家だったように思います。それが後に1900年代のルーツにつながっていったのでは?


でも、ルソーの絵ってフランスじゃなく外国でみることが多いのはどうしてなんだろうか。
いつも疑問に思います。お金持ちの外国人に相当買われてしまったのだろうか。それともフランス人がアンチルソーだった風習があったのだろうか。それとも私の気のせいなのだろうか。



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これはボナールの「白猫」
 
 
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ボナールはこういう細長い絵画が多いです。
日本の浮世絵のスタイルにかなり影響されているのがわかりますが、この絵もグッときます。ぼんやりした色調がとても素晴らしいと思います。
 
これも細長い作品。「格子柄のブラウス」というタイトル(英語は「Checked Shirt」)。
ボナールの絵って幸せを感じます。とてもほのぼのした気持ちになります。

 
 
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 オルセー美術館には展示しきれないほどのコレクションが山のようにあるそうです。
今回の修復によってそれらの作品が世にお披露目されることを館長も楽しみにしているとのことでした。また、昨今の不景気により借金を抱えたお金持ちの人たちが絵を売りたいと申し出てくるケースも増えたと言ってました。フランスはそのような人々に対して絵と交換に税金免除制度を設けていると言ってました(確か税金って言ってたはず・・・もう忘れかけてきたので自信がない)。さすが芸術大国ですね。絵画を持っているということは相当の財産なんですね(当たり前だけど)。



ほらね、これだけの絵画が修復中に世界巡業の旅に出ていたら、私のパリ滞在時のオルセーに対する期待値が少し下がるのがお分かりでしょう。だけど、実際行ってみたら十分見応えある作品も多数残っていて愕然としてしまったのですけれど。


以上となります。
この記事は書きかけのものを引っ張りだしてようやく完成させることができました。
自分の好きなことを徹底的に書き続ける作業はとても幸せです。
これで安心して年越しできます


長い駄文におつきあい下さいましてありがとうございました。