スラムドック・ミリオネア 2008年 イギリス
監督: ダニー・ボイル
主演: デヴ・パテル、マドゥル・ミッテル、フリーダ・ピント
(あらすじ)
ジャマール(デヴ・パテル)が人気クイズ番組「ミリオネア」で全問正解したことに容疑をかけられ、警察に尋問を受ける。まともに教育も受けておらず携帯電話のオペレーターへのお茶くみ係の彼は、一体なぜクイズに回答することができたのだろうか。そこには遠い過去、スラムで育った兄サリーム(マドゥル・ミッテル)、そしてみなし子のラティカ(フリーダ・ピント)と過ごした記憶がよみがえり、その謎が明らかになっていく。
おもしろかったです。
みんなが絶賛するだけあって、集中してみることができました。
インドのボンベイは国内でも有数のスラム街だったそうなんですが、まずそのすさまじさから圧倒されます。ごみ溜めの中にひしめく貧民街のそばを流れる川すらも汚染と汚物でよどんでいる。インフラが整備されていない道路は土ぼこり、雨が降れば泥となり、トイレも相当な代物・・・。ゴミ捨て場の山から何か売れるものを探し、わずかな収入とチップを求めて徘徊する子供たち。そのうち宗教対立で街は焼かれ、親は暴力に倒れ、ストリートチルドレンとなって泥棒や人身売買、物乞いや幼児売春を強要される子供たち。その中にこの物語の主人公たちが生きている。
混沌とした世界なのに、彼らはとてもくったくなく明るい。比較対象する相手がいないから自分達が不幸だとも思っていない。彼らは彼らで、誰にも頼らずに力強く生きている。その姿に何より心を打たれる。この映画の一番の見所はそこなんじゃないかと思う。
モロッコに行ったことを思い出した。
山もない、家もない永遠に続く平原の中を、小さなロバと少年が立ち止まったまま私たちが乗る、走りゆく電車をただ見つめていた。
私はあの時に、地球は一つじゃないんだと、雷に打たれたような気持ちになった。
私たちが生きている地球の反対側には、私たちが知りえないもう一つの世界があるんだと思った。
先進国や、特に日本という国にいると、我々はいかにちっぽけなことで頭を悩ましているかが本当に良く分かる。
髪の毛が痛んでいるとか、ジーンズの裾の広がりが気に入らないとか、ブランドを持っているとかどれだけ有名人を知っているだとか雑誌に載ったとか誰が独身で誰が既婚だとか浮気だとか不倫だとか評価とか成果とかとにかくどうでもいいことの中で生きているような気がする。
本当にそう思う。
この映画は主に3つの大きなパートに分かれていて、この兄弟の幼少時代、少年時代と青年時代をそれぞれ役者が変わって演じています。ミリオネア疑惑は青年時代の出来事なのですが、ラストは巧みにこれらの時代の様々な出来事が一気に終結されてまとまっていきます。最後の方は若干フィクション的な展開になっていくのですが、そのあたりも一般的にウケがいい理由でしょうか。
もし、この映画が最初の幼少&少年時代だけの物語で終わっていたら、おそらく大衆ウケは一部だけとなり、単館ロードショーどまりだったと思います。こういうエンターテインメント性があることはアカデミー賞を総なめにした大きな要素だと思います。
監督は「ザ・ビーチ」(これも良い映画だった。「地獄の黙示録」と少しだけ似ている部分がある)、「トレインス・ポッティング」などを手がけたイギリス人。原作は映画とまるで異なるらしく、どちらかというとそっちの方が面白そうなので読んでみようと思います。