世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

未亡人の一年/ジョン・アーヴィング

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文句なしにおもしろかった。
やはりアーヴィングは相性がいい。


(あらすじ)
高校時代の夏休みに作家の家でアルバイトを始めたエディ。そこでは絵本作家で浮気体質の父、二人の息子を亡くした死から立ち上がれない美しい妻マリアン、そして無邪気な4歳の女の子ルースに出会う。エディは美しく、また悲しみの淵から立ち上がれないマリアンと恋に落ちるが、ある日遂に彼女は家を出てしまう。青春期に多大なる影響を与えたこのひと夏の思い出は、その後も彼の人生にしっかりと根を下ろし大きくからみあっていくのだった。




ジョン・アーヴィングという作家は基本的に家族の絆をメインにしたものが多い。
そこに愛情や悲しみや死や絶望や、いろんなことが肉付けされていくのだけど、彼の作品の何が好きかというと、やはりそのユーモアに尽きる。彼のちょっとひねりのあるブラックなユーモアが何よりも彼らしさの代表なのだけど、このセンスはきっと誰にも真似できないんじゃないかと思う。


・ちょっとした疑問~「アーヴィングの女性像」
また、「未亡人の一年」は私がこれまで読んだ作品の中でも一番セクシュアリズム表現が多かった。
これはポルノなのかと思うようなシーンが多数出てくるので電車で読むときは若干ドキドキすることもあった。

大胆なんだけどサラリとやってのける手法はさすがとしか言いようがないにしても・・・
女性の心情を一体どこまで理解しようと努めているのかしら?
もしサイン会とかあったらぜひ聞いてみたい質問の一つ。
もしかしてあくまでも彼個人の描く個人的な理想の女性像を物語りに投影しているのだとしたら時々ちょっとそれは現実離れしているような気もするし、逆に物語ならいっそのこと現実離れしたからといって大した問題にはならないにしても、この作品の女性達は妙にリアルで断定的な感じがするのです。つまり現実と虚構の間に矛盾を感じるんです。女性の読者の立場として、ですけどね。だって80歳のおばあさんが性的関係を求めたりなんかするのかな(笑)。私は80歳ではないので分かんないけど。
(おそらく男性はこういうった疑問をあまり感じる人は少ないんじゃないかと思われます!)


・何よりもすがすがしい爽快なラスト

何年間も何十も歳の離れた女性、マリアンを生涯愛し続けるエディ。
そんな彼に友人が言う。


「時間は止まらないのよ」
「もう四十年にもなるのよ、エディ。もう乗り越えなきゃ!」


その言葉が本人が想像する以上に彼の心にグサリと刺さっていくんですね。

― 冗談じゃない。もうそろそろ乗り越えてもいいころだ。だが彼は、けっしてマリアンを乗り越えることはなかった。エディ自身、けっして乗り越えられないとわかっていた。―


分かってはいるけど、感情とか思い出とか感傷的なものだけじゃ済まされないものってある。
諦めきれないもの、捨てきれないもの、忘れられないもの。

しかし彼は物語の最後にこう語る。


― ハナは間違っていた、とエディには分かった。時間が止まるときがあるのだ。
その瞬間を見逃さないように、しっかり注意していなくてはならない。―


美しすぎるラストは、この長い物語の中でグルグルまわっていたそれぞれの人物のひねりの効いた人生がきれいにまとまった完璧なエンド。自分も一緒に笑い苦悩するように登場人物に同調したりしていたのでそのすがすがしさがとても気持ちが良かった。


「僕は小説家として、読者の笑いや涙を誘い、読者の感情をそのまま揺さぶりたい。知的に説得したいとは思わない。」


とにかくこういう作風って日本にはあまりないんですよね。

私はそんなアーヴィングの「洗練されたデコボコ感」が何より好きなんだと思います。
この人の本を読むという行為は私にとって限りなく癒しに近い。

P.S 物語の中に物語を挿入するのは彼の得意技なんだけど、今回のもそれだけで読ませる内容。天才・・・。