世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

犬の人生/マーク・ストランド

キタキタ。

このところ3連続でアタリの本に出会っていますので頑張ってレビューしたいと思います。
まずはこれから。


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犬の人生/マーク・ストランド著(村上春樹:訳)



■ある男が何度も何度も恋に落ちる話。「真実の愛」

(一部抜粋)
それから一週間ばかりすっかり落ち込んでしまった。そして深まっていく沈黙が私を餌食とした。その沈黙は私の内なる生活を支配し、外なる生活を破壊していった。その短い期間に、私の二人目の妻と私は、次第に相手から遠ざかっていった。私たちの人生のテキストは、書かれるというよりは、消去されていった。語られていた言葉は次第に小声の囁きとなり、やがては会話のあいまの柔弱な沈黙の中に没していった。物語は形式を喪失し、まとまりを欠いた出来事は、まるで夢のように気まぐれな様相を帯びていった。意味は足場を失い、思考の外縁へと誘い出され、不吉なまでに消滅に近接していった。
私はよその女と恋に落ちていたのだ。



なんて美しくなめらかで繊細な文章表現なのだろうか。

これは読んだ瞬間にビビビときましたね。



この本におさめられている短編はどれも、どこか神秘的で薄暗くて静かな美しさがある。
「Pause」ボタンが押された状態の空間をゆっくりと移動しているような感じがする。物語の中にも緊迫感があるし、強制や押し付けや無理矢理な結末を持ってくることも好まない。更に、残り香みたいな艶かしさというかまったりとした余韻の美しさにうっとりしてしまう。
とにかく特殊なタイプの小説で、完全に好き嫌いの好みがはっきりと二分されるタイプの作家だと思う。



■誰しもが選ばれたと称する人物、ウーリーの孤独な内面を移す話。「ウーリー」

(一部抜粋)
僕は世界を小さな目から見ているんだ。その目はあまりにも小さいので、世界の方は見られていることに気付かないのさ。


「僕は星空の下に出て行って、僕という存在のちっぽけさの中に入り込んだものだった。そして僕はその中にある空虚さの中に消えた。するとそこは、すごく広々としているように思えた。」


■売れない作家として障害を送った父を今でも忘れない息子の話。「更なる人生を」

■繊細な少女の心情をじっくりと追いかける話。「水の底で」

(一部抜粋)
私は沈んでいくが、それは私の考えたものと違っている。ゆっくりと、「沈んでいく」という言葉から通常思い浮かべるよりも遥かにゆっくりと、私は沈んでいく。そして私は自分の人生からどんどん離れていくように感じる。



マーク・ストランドさんはもともと詩人や童話作家として活動しているとのことなので、小説を次から次へと発表しているわけではないそうです。だからなおさら貴重な本ですね。あ、プリンス・エドワード島の出身だそうです。モンゴメリと同じ出身地ですね。だけどどちらかというとこの人の文章はどこか都会的な感じがしました。



三重丸な小説だった。お見事!感嘆のため息しか出ません。