世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

クレラー・ミューラー美術館

さて、前回個人的三大美術館を挙げてみました(※思うところがあり、1位と2位を逆転させました)。


そして三位はオランダ・Otterloという郊外の町にある「クレラー・ミューラー(Kroller Muller)美術館」。
オランダを訪れた目的は絵画鑑賞がメインだったので、ここを外すわけにはいかない。



ここは国立公園の中にある美術館で、林の中にひっそりと佇む静かな静かな場所にある。

私が訪れた日は人がまばらで、お昼の後のまったりとした静寂の中でたくさんの絵画をゆっくりと眺めることができた。

この美術館はミースのファンズワース邸をお手本としたようなフラットな設計で、うしろを振り返ると全面ガラス張りの壁からみる景色は森林と池が広がっている。
とても開放的で気持ちがいい。


同じ鑑賞者の誰かと目が合えば、お互いニコッと沈黙の挨拶と共通の喜びを共有できるような平穏な時間。

シーンという『音』が聞こえてきそうなほどに、静か。

ゆっくりと歩く、遠慮がちなコツコツという靴音すら心地よく感じる。


著名な画家達の絵は、大抵大きな美術館に掛けられ、世界中から押し寄せる観光客の目に常にさらされがちで、ある意味それは宿命でもあるのだけれども、ここではゴッホだろうがゴーギャンだろうがそれらはまるで場に溶け込むようにさりげなく、ごく自然に展示されている。

だからなお一層、絵に親しみを感じることができる。




私がクレラー・ミュラー美術館を三位に挙げた理由は、まさにこの「空間」にあった。

ここまで人の心を調律するような素晴らしい美術館に、私は後にも先にもまだ出会ったことがない。



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帰り道にバスの時間までしばらくあったので国立公園の林の中を探検してみることにした。
(そこが国立公園と呼ばれることを知ったのはあとになってからのことなのだが)


レンタル自転車が置いてあったのでそれに乗って走る。オランダ人サイズのイスは驚くほど高いのでつま先でペダルをこがないといけなかった。あんまり遠くに行っちゃうと迷子になって元に戻れなくなるのではないかという不安を覚えるほど広い。

だけど何もいない、誰もいない自然の景色はとても気持ちが良い。

自転車をどんどんこいでいくと、どこかで観たような景色を見つけた。
そして自転車を降りて、しばらく感動で身動きがとれなかった。

そこにはゴッホの描く絵の世界があった。

左に大木があって小麦色の草地があり、雲を浮かべた空は平行に走っている。




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彼の絵の世界は虚構じゃなくて現実だったんだ。

そう思った。

自分が好きな絵の世界が現実にあるとしたら、それはとても素敵なことだと思う。少なくとも描いた画家と同じ景色に偶然出会えることに、私はとても感動してしまう。(ギュスターヴ・モローの絵が現実だったら個人的には嫌だけど。更に同様の経験を数年後フィンランドでも体感し、あまりにもの感動で胸が震えることになる)



おそらく、何か行動をしたり思考したりしながら何気なく目標地にたどり着いた時に、

なんともいえない充実感とか、えも言われぬような満足感をかみしめること。



それが「幸せ」なんだと思う。


ちょっとだけ、とても気持ちの良い風がヒュッと吹くこと。
ほんの少し、ホッとすること。


それは突然訪れる、予測不可能な感情。


その質が良ければ良いほど、後味はまったりとしばらく持続する。

一人で旅をしていると私の場合はどんどん「静」に近づいていく。するとどんどんいろんな自分と対面するようになってくる。かといって、別に24時間自分について考えているわけなんかなく、むしろ何も考えていないことの方が圧倒的に多い。この、「何も考えない」ということが自分と向き合うことに結果つながっていくからだ。無心になることほど私にとってのセラピー効果はないと思っている。


オーヴェールの町で同様の経験をしたり、南フランスのしがないカフェや青い空にそびえるコロッセオを毎日見るたびにで似たような気持ちを噛み締めたこともあったし後押しされるような気持ちになったけど、
ヨーロッパのいろんな場所を歩いてこういう気持ちを覚えたのは、おそらくここが初めて。



アムステルダムに戻れば、またいつものようにサッカーに熱中する人々や、飾り窓のネオンやコーヒーショップの看板、オランダ語と英語が飛び交うカフェやバー、運河沿いの新緑に沿って立ち並ぶ細長いフランドル風の建物が並んでいる日常に戻る。
だけどほんの1時間足らずの森にはまっさらな自然が悠然と構えている。

その開放的な文化と自然体な芸術的観点のバランスに感服。ある意味「余裕」すら感じる。


数年後、再びオランダを訪れたけど、ここには足を踏み入れることはあえてしなかった。

思い出は思い出のままの方がいい時がある。
自分のそういう記憶に自ら土足で入っていくようなことだけはしたくない。


オランダ。
次もまた一人で行ってみたい場所。