「どうしても連れて行きたいインド料理やがある。」
そう言われて喜び勇んで出かけたイーストヴィレッジ界隈のとあるインド料理街で。
普段は多くを語らないお友達なのですが、その時は料理が見えないくらい暗い店内の照明とお香の匂い、そして仕事のあとで疲れていてちょっとお酒がまわってきたからでしょう。話がしたくなったみたいだったので、私は何も言わずに黙って話を聞いていました。
彼女はモロッコへ数年前に旅をしました。
その時、ある青年に会いました。
彼はそれは親切に彼女をエスコートし、ありとあらゆる場所へガイドをしてくれました。初めはその親切に偽りはないものだと信じきっていたのですが、次第にその青年はやはり下心があるんだという事に気付きました。それはお金であったり、いろいろです。
その時、ある青年に会いました。
彼はそれは親切に彼女をエスコートし、ありとあらゆる場所へガイドをしてくれました。初めはその親切に偽りはないものだと信じきっていたのですが、次第にその青年はやはり下心があるんだという事に気付きました。それはお金であったり、いろいろです。
彼女はその青年の人柄を信じきっていたため、裏切られた気持ちで一杯になりすぐさまモロッコを出ようと決意しました(ちょっと違う部分もあるけどどこかで聞いた話だ)。
けれどその信頼感を粉々にされた気持ちを引きずったまま後にするには悔しすぎたので、ある事を思い出しました。
けれどその信頼感を粉々にされた気持ちを引きずったまま後にするには悔しすぎたので、ある事を思い出しました。
それは、青年に連れて行ってもらった彼の友人のアトリエにあった一枚の絵。
それをどうしても欲しくなった。
もともと一目ぼれした絵であったのに間違いはないのですが、何が何でも欲しくなった。
彼女は意を決して出発の前日にそのアトリエへ向かうと、ちょうどその青年と画家が二人でミントティーを飲んでいるところでした。彼女はその青年の方をあえて一度も目をくれることもなく、その画家の男の子だけをまっすぐ見て言いました。
彼女は意を決して出発の前日にそのアトリエへ向かうと、ちょうどその青年と画家が二人でミントティーを飲んでいるところでした。彼女はその青年の方をあえて一度も目をくれることもなく、その画家の男の子だけをまっすぐ見て言いました。
「お金はいくらでも出す。だからあの絵をちょうだい。」
青年と画家はじっと彼女を見つめていましたが、彼女は青年には目もくれずに画家の方だけをまっすぐ見据えてはっきりとまた繰り返した。
「私はモロッコにきて何一つ買っていないじゃない。けれどどうしてもあの絵だけは欲しいのよ。いくら出したら売ってくれるの?」
しばらく3人の間には沈黙が流れました。青年は黙って下を向いたまま微動だにしません。
するとその画家がこういいました。
するとその画家がこういいました。
「マドモアゼル。申し訳ないけどあの絵はいくら出されても売れない。なぜならあれは僕が人生で一番最初に描いた絵だからなんだ。」
彼女は更に打ちのめされた気分になってしまいました。
そして何も言わずに黙ったまま走ってホテルへ戻りました。
そして何も言わずに黙ったまま走ってホテルへ戻りました。
翌日。
彼女がマラケッシュの駅で一人列車に乗っている時。出発時間の間際になって、一人の男性が彼女の方へ走ってくる姿が見えました。それはあの青年ではなく、画家の方でした。彼は息を切らせながら彼女が座っていた列車の窓の下に来るとこう言いいました。
彼女がマラケッシュの駅で一人列車に乗っている時。出発時間の間際になって、一人の男性が彼女の方へ走ってくる姿が見えました。それはあの青年ではなく、画家の方でした。彼は息を切らせながら彼女が座っていた列車の窓の下に来るとこう言いいました。
「あいつはね、けして悪い奴じゃないんだよ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「もし、どうしても君があの絵を欲しいなら・・・・また君が戻ってくるその時までに、僕はあの絵と同じものをもう一枚描いておくから。」

私が寝ていたリビングルームには大きな一枚の絵が掛かっていました。それはブルーのタッチで描かれていて、一人のモロッコ人のターバンを巻いた男性が、椅子に座っている男性の髪をカットしている後姿が描かれた油彩画です。そこには黒いカラスの羽が舞っている、静寂と沈黙の漂う絵でした。
そしてサイドテーブルの上には一枚のモノクロの、全く同じシーンの写真のハガキが置かれていました。
そしてサイドテーブルの上には一枚のモノクロの、全く同じシーンの写真のハガキが置かれていました。
「あれはね、友人がもともと絵描きだったからハガキを模写して描いてもらっただけ。」
それから数日間帰国するまでの毎日、部屋でその絵を見るたびに胸がつまりそうな思いだった。
彼女はその絵を、陽当たりの良い一番素敵な場所に飾っています。普段は使わない部屋です。だから毎日毎日見るわけではありません。
彼女はその絵を、陽当たりの良い一番素敵な場所に飾っています。普段は使わない部屋です。だから毎日毎日見るわけではありません。
おそらくたまにドアのすきまからチラッとみるだけとか、用事があって入る時に、入るたびに。
たまに思い出してはあの何とも言えない気持ちになるんだと思います。
それはとてももろくて大切な、静かな記憶として。
それはとてももろくて大切な、静かな記憶として。