韓流ドラマは本当に傑作が多く、シリアスな人間ドラマやミステリー、サスペンスも秀逸なものが多いけど、男女問わず評判のいいのがこの「ミセン」というドラマだった。
あらすじ
物語はソウルの一流商社にインターンで働く若者たちから始まる。子供時代をすべて犠牲にして家族一丸となって勉学に励み、厳しい受験戦争を勝ち抜いてやっと一流商社に入社できるのはその中でもわずかな生え抜きのメンバーのみ。そこに、高卒の青年、チャン・グレがやってくる。彼は幼少の頃から将棋士として名を馳せたものの半ばで挫折し将棋の世界から手を引いた。そして知り合いの紹介でこの一流商社へインターンとして配属されることになった。学歴も経験もない一人の青年がどのように成長していくかを、韓国のビジネス社会を通して見守っていくというストーリー。
10年前の韓国のビジネスシーンはこれが現実?
まず、このドラマは今から10年前に作られたものであるという大前提で観る姿勢が重要。なぜならばひどいハラスメントの巣窟以外の何物でもなかったからだ。ある程度ドラマ用に誇張しているとしても、とにかくほぼ全員が感情的。些細なことでも信じられないような大声で罵るのは日常茶飯事だし(これ韓流ドラマの欠点かもしれない)、信じられないようなセクハラ発言があったり、会社で血を流すほど殴ったりする。そんな様子をみていると、いくらドラマとはいえ心休まらず、これってガチの現実なの?と混乱さえした。同情や共感よりも疲労のほうが…。
主人公チャン・グレの影が薄い
この青年が主人公なのかと思いきや、彼の上司である営業3課のオ次長や同期それぞれの苦悩などいろいろな人にフォーカスが当たるので、彼の成長があまり見当たらない。セリフと言えばいつも「ありがとうございます」「すみません」しかない(笑)。確かに時々がんばるんだけどいつも空回りで、次長やチームを思いやるあまりに余計なことやってみんなに迷惑をかけてばかり。そして最後にはまた「すみません」で終わる。チャン・グレよ、いったい君はいつ成長してくれるんだ!
なかなか報われない新入社員
インターンを終了して晴れて正規雇用として新入社員になったのはたったの3名。そしてチャン・グレは学歴がないため契約社員として4人目の採用となるが、彼なりに努力しながら新規提案を成功させ会社に利益をもたらしたのに、正当に評価されることなく最後まで正規雇用されることはなかったところに、物語の展開としては夢も希望もないなとがっくりしてしまった。また、同期たちもスーパーハラスメントな環境で、毎日怒鳴られお茶くみに徹し、頭を下げて耐え抜いている姿に全く共感ができず(笑)、お願いだからこれが韓国の現状ではありませんようにと願うばかり。
新しい視点
一方でこれだけ多くの人が関わっているドラマであるにも関わらず、お約束の恋愛関係がどこにも生まれてこなかったあたりに新鮮さを感じた。たまにこの二人もしや、、と思うシーンはあるけれど、いずれも主人公を差し置いて別の配役同士での話。主人公のチャン・グレは今日も「ありがとうございます」「すみません」を繰り返し日々を過ごすのであった。。。チャン・グレよ、恋愛くらいしてほしかったよ!
とにかく不平不満ばかりの日々をエピソード19まで観て、最終話やっとエピソード20で報われる。長かった。。。
人生は肩書きではなく、どこで誰となにをやるか
最後まで良い人なのか悪い人なのかわからなかった専務の賄賂によるコンプライアンス問題で中国との取引が悪化した責任を取り、専務は非上場関連会社に異動、チャン・グレの上司オ次長は自主退職というかたちで責任を取って辞める。チャン・グレも契約満了であっというまにいなくなる。
しかし、退職したオ次長は昔の仲間と起業し、世界をまたにかけるビジネスを始め、もちろんそこにチャン・グレもジョイン。彼らを失って辛い日々を過ごしていた有能な先輩ソンシクも商社を辞めて参画、3人は再びタックを組んで新しい人生をより充実しながら世界へ向かって躍進していくのだった。そしてこの頃にはチャン・グレは(急に)立派なビジネスマンとなり、オ次長の超とびきりのお気に入りの部下として砂漠を二人で四駆自動車で駆け巡るというラスト。
最後はよかったかな。私の知り合いでもやはりエリート街道まっしぐらで生きてきた人がいるけれど、部下をぶんなぐってクビになり、そのあと海外で起業して大成功し、まだ55歳くらいだけど好きなことをやって悠々自適で自由に生きている人がいてやっぱりそういうのうらやましいと思う。このドラマの営業3課も結局はそういう感じだから、男性からも支持がある理由はそこなのかなあと思った。
韓国の社会問題はいかに変わっていくか
10年後の現在、このドラマにあるような韓国の社会問題もだいぶ変わってきていることを望む。日本だってほんの10年前まではハラスメントやコンプライアンスはゆるゆるで、多様性にも果てしなく鈍感だったから、この数年でわりと大きく変化を遂げたといえるだろう。しかしながらやはりいまどき?!と思うことも多く、もっと新しい時代の変化を受け入れていかなくてはならないと思う。そのためには世代交代が必要か。
総評としてはうーんといった感じでもう少しチャン・グレの成長をみたかったなあというのが本音。でもこのドラマは韓国だけでなく日本でも根強いファンがいるので、ぜひ興味のある方はNetflixで。