世界ふらふら放浪記

雑記と人生の備忘録

クラシック音楽と戦場の話

すっかりミーハーと言われても否定ができないが、去年のショパンピアノコンクールで入賞した二人の若きピアニスト、反田恭平さんと小林愛実さんに夢中になっていて、先日N響定期公演の小林愛実さんを聴きに行った。今やこの二人のコンサートは争奪戦で発売と同時にソールドアウトになるほど人気なのである。

 

 

シューマン ピアノ協奏曲イ短調作品54

シューマンの代表作の一つで、ピアノ協奏曲の歴史においてフランツ・リストの二作品とともに19世紀前半の展開を総括する重要な作品。初演は1845年の12月、偶然にも私の誕生日の日付と同じだった(年代じゃなくて日にちね、あたりまえだけど)。

 

 

 

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物悲しい旋律が印象的なこの協奏曲は、フルートやオーボエとピアノの合いの手がなんども繰り返され、その背後にヴァイオリンが厚みをつけていくような大変美しい楽曲だった。小林愛実さんのピアノの魅力は、「どんな小さい音も命が吹き込まれていくような生命力がある」のだとか。

 

 

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これは何度繰り返しみても飽きない反田さんのコンクールファイナル。

 

 

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クラシック初心者の私が反田さんのピアノの特徴を語ることなどできないのだが、とにかく聴いているとただ引きこまれる、その一言に尽きる。

 

ラジオで反田さんはショパンのボロネーズのことをこう語っていた。「英雄はそっと立ち上がり、周りの町の人たちはその姿に気づいてざわめき始める。初めはヒソヒソと。そして英雄はしっかりと胸を張って立ちはだかるところから物語が始まっていくのだ」と。「間奏のくだりは馬のひづめだ。軽やかで静かで軽快に走る馬のひづめを思い描く」のだと。そのようなストーリー性を自分で解釈して演奏していると聞いてちょっと驚いた。そういえばうちの父親もベートーベンのある楽曲について似たようなことを言っていたなと思い出したからである。聴き手はいくらでも自由に解釈ができるけど、演奏者もそれなりの解釈をしているんだと知り、また一歩クラシックを身近に感じた。

 

 

 

 

一方で実際に会場に行くと、クラシックというのは演奏者の表現力やテクニックだけじゃなく、もちろん指揮者あり、その周りを囲む空気、楽器や環境やいろんなものを総じて結び付けられる結晶なのだなと感じ、そういう意味でも演奏者は精度の高さを求められるものすごくシビアなジャンルなのだと改めて思う。

 

 

 

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(一番安い席というのがバレバレなのだけど、音楽は近くで聴く必要もないので)

 

 

 

むかしNHKの番組でピアノメーカーのドキュメンタリーをみたことがある。ピアノで有名なスタンウェイ&サンズ、KAWAI、YAMAHA、FAZIOLIの四大メーカーがしのぎを削って演奏者にプロモーションをする姿に衝撃を受けた。彼らの実績はやはり有名コンクールで弾いてもらって良い実績をあげてもらうことが最大のPRだからそのマーケティング活動は想像を超えるほど徹底している。演奏者に少しでも快適に心地よく弾いてもらうことがまずは大前提になるので、調律師とマーケティング担当者が彼らの問題点やどう演奏したいかなどをみっちりヒアリングしてパフォーマンスを高めるためのピアノを調律師が徹底的に極限までカスタマイズしていくのだ。また、メンタル的サポートも当然兼ねるので、演奏者が好きな食べ物を差し入れしたり情報交換したりしながら、単なるメーカーの人間というだけでなく同志として共に戦っていくほどの深い関係性を築き上げる努力はなみなみならぬものがある。また、大舞台で活躍するピアニストはほとんどが海外で活動していることから、彼らもほぼ入り浸りになり寄り添いながら生活をする。

 

各コンクールはピアノメーカーにとっても熾烈な戦場である。コンクールの会場ではどのメーカーが何台使用され、そのうち何人が入賞したのかが彼らの実績にもなるので、結果発表は演奏者だけでなくメーカーにとっても緊張の瞬間なのだと言っていた。業界は異なるが私も同様の仕事に携わっていたことがあるので、ピアノ業界の知られざる舞台裏にすっかり魅入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

ピアニストを目指す人、音楽家を目指す人はやまほどいるというのにショパン世界コンクールで賞をもらうなんてものすごい名誉なこと。反田さんと小林さんには改めて拍手を送りたい。

 

 

ヨーロッパはクラシック音楽やオペラだけでなく、絵画やアートなども生活と密接に結びついている文化的背景がしっかりと根付いているから本当に羨ましい。日本みたいにスポンサーの儲け狙いでバカ高いチケットを買わずとも気軽に500円程度でも十分に楽しめるコンサートや企画展がそこらじゅうで開催されているから、やはり自分も定年退職したら一年のうち数ヶ月は海外で暮らせるように今からがんばろう。もっといろいろ知りたいことや見たいことがやまほどあるから、自分にとって歳を重ねるということは、今よりももっと自由になれることだと信じているので楽しみ以外の何物でもない。とにかく健康で、それだけ。

 

 

サラ・ヴォーン with クリフォード・ブラウン

 

これは最近一番気に入っているアルバムです。

一日の中で一番ゆったりしたい時に、大事に聴いています。

レコードの裏に書いてある情報だと、クリフォードブラウン(トランペット)は女性ジャズシンガーと三回コラボしていて、一番有名なのはヘレン・メリルの You'd be so nice to come to home to であり、当時日本ではこのサラ・ヴォーンとのコラボアルバムがちょっと影に潜んでしまっていたのだとか。

 

 

二曲目の「April in Paris」は名曲中の名曲ですが、このアルバムのサラ・ヴォーンのバージョンは哀愁漂いうっとりしてしまいます。

 

 

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「4月のパリはマロニエの木に花が咲き乱れていて」という歌詞が旅情を誘います。

 

先日行ったゴッホ展でもマロニエの木を描いた作品がやはり気に入りましたが、ゴッホに描かせると「一体どこがマロニエ??」という結果になります。

(そういう奇抜なセンスも含めてやはりゴッホが好きです)

 

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